保育のコラム

公立保育園と私立保育園の保育士の待遇面(給料・福利厚生など)と働き方の違いとは?

2020/10/01

保育士の働き方について相談する

保育園には大きく分けて公立保育園と私立保育園があります。

公立保育園で働く保育士は、公務員保育士試験を突破した地方公務員で、私立保育園では学校法人やNPO法人に雇用された会社員です。

メディアなどの報道で、公立保育園の保育士は地方公務員のため、安定していて働きやすく、私立保育園の保育士は低賃金で過酷な労働が強いられるなどのイメージもあるようですが、はたして実態はどうなのでしょうか。

本記事では、公立保育園保育士と私立保育園保育士の気になる給与差の実態や、働き方の違い、産休や育休の取得、退職率、将来もらえる年金など、具体的にご紹介します。

 

“ずっと保育士編集部”

【記事監修】ずっと保育士編集部

「ずっと保育士」は、保育ひとすじ30年の株式会社明日香が運営する保育専門のキャリアサポートサービスです。結婚や出産、育児など、目まぐるしく変わるライフステージの中で、その時その時にぴったり合うお仕事を紹介したい。そして、保育の仕事でずっと輝き続けるあなたを応援したい、という想いで保育士の就職、転職、復職などのキャリア支援を行っています。また、「ずっと保育士」では保育士さんの疑問や悩みなどを少しでも解決すべくコラムを通した情報発信も積極的に行っています。

 

そもそも公立と私立の保育園の違いとは?

 

公立保育園と私立保育園の違いは、運営団体の違いです。

公立保育園は市区町村といった自治体が運営を行い、保育士はパートや非常勤、短期雇用以外の先生は地方公務員として、市区町村に雇用され、地方公務員に準じた待遇となります。

一方、私立保育園では、学校法人やNPO法人、保育事業を展開する民間企業が運営を行い、保育士は運営団体に雇用され、待遇は運営団体の基準によって違ってきます。

これらをまとめると、公立保育園と私立保育園の運営の特徴は、以下の表1の通りです。

 

表1:公立保育園と私立保育園の特徴の違い

 

特徴

公立保育園

・各自治体で決められた保育計画に沿って、公立園間で差が出ないように運営

・月案・週案などは、各自治体によって決められたカリキュラムに沿って提出

私立保育園

・保育指針を各私立保育園独自に定め、それぞれの方針に沿ったカリキュラムを運営

・月案・週案などは、会議によって決定する。

 

公立保育園と私立保育園の保育士の働き方や待遇の違い

実際に、公立保育園と私立保育園の保育士では、働き方や待遇にどのような違いが発生するのでしょうか。

公立保育園で働く公務員保育士には、一般的に「給与・待遇が良く、安定している」イメージが強いですが、保育士の待遇改善が叫ばれる昨今では、私立保育園で働く保育士の待遇や働き方も大きく改善していると言えます。

ここからは、働く上で気になる給料や、福利厚生、仕事内容、退職金や年金制度、転職のしやすさなどのポイントを、私立保育園と公立保育園で比較してみていきましょう。

 

給料面(ボーナスなど)

 

公立保育園の保育士は定期昇給によって給料が上がるため、最初は私立保育園の保育士とほとんど差はありません。

しかし、勤続年数が長くなったり、役職に就いたりすることで一気に給料が上がっていきます。

以下の表2は、子ども家庭庁「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」のデータですが、一般の保育士の給料差は公立・私立ともにほとんどありませんが、園長(施設長)や主任になると給料がかなり上がっていることがわかります。

 

表2:公立保育園と私立保育園の年収の違い

 

公立保育園(常勤)

平均

勤続年数

私立保育園(常勤)

平均

勤続年数

園長(施設長)

759万5,784円

31.8年

679万円740円

25.8年

主任保育士

674万700円

25.1年

507万5,592円

21.7年

保育士

363万7,356円

11.0年

362万1,876円

11.2年

参考:子ども家庭庁「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査

※平均年収:1人当たり給与月額(賞与込み)×12で計算

 

福利厚生面

公立保育園の保育士は、地方公務員のため、福利厚生は完全に完備されていると言えるでしょう。

公立保育園の保育士は、厚生年金や社会保険、健康保険、労災保険への加入はもちろん、産休や育休の取得は保証されています。

 

給与面では、地方公務員としての定期昇給制度、賞与の制度があります。

一方、私立保育園の保育士は、運営団体次第のため一概には言えません。

なぜなら、私立保育園の場合は、運営団体の経営状況や、地域での相場などにより千差万別だからです。

 

以前は、社会保険制度の未加入も多く、福利厚生もない私立保育園が散見されていました。

しかし、今は保育士不足の解消のため、福利厚生の待遇改善は社会全体で動きが見られ、今後さらに期待できるでしょう。

 

仕事内容(働き方)

公立保育園は、運営する各自治体が定めた保育指針によって運営されています。

保育内容は、比較的保守的な内容が多く、現場の意見や新しいトレンドが取り入れられることは少ないかもしれません。

 

週案や月案などの提出も、自治体のフォーマットに従ったもので作成するため、比較的書きやすいものと言われています。

また、公立保育園の保育士の場合、およそ3~4年の単位で異動が発生します。

 

ただし、別の保育所への配属になったとしても、同じ保育内容で運営されているため、引き継ぎや仕事の混乱が生じることは少ないでしょう。

新しい人間関係を数年ごとに構築し直すことにストレスを感じる方には、厳しい働き方かもしれません。

 

保育園は、0歳児育児から含めると、約6年間子どもを預かる場です。

そのため、異動で子どもたちの成長を途中で見られなくなることで、寂しくなる人もいるでしょう。

 

私立保育園では、各園がそれぞれの保育指針を策定して運営しています。

キリスト教や仏教など、それぞれの思想信条を反映させた取り組みや、リトミックや体操、英語やアートなど、新しいトレンドを積極的に取り入れる園も少なくありません。

 

その分、週案や月案などは一から作成するなど、作成に苦労しなければならないことも多いようです。

私立保育園の異動は、系列の保育園へ動くこともありますが、運営団体により様々です。

 

ほとんどの場合、通勤事情などを考慮し、活発な異動はありません。

勤務時間は、公立・私立保育園ともに7〜8時間のシフト制が多いようです。

 

ただし、私立保育園は人手不足も加わり、延長保育や早朝保育などで残業がある場合もあります。

また、休憩時間にも仕事がある場合が多く、「休めない」といった声があるなど評価は千差万別です。

 

一方で、公立保育園では、早朝・夕方保育に臨時職員を雇用しているケースが多く、私立保育園に比べると人材の確保ができているため、残業は少なめであると言えるでしょう。

以上のように、働き方が優遇されていることが、公立保育園の方が良いと保育士の間で言われている理由の1つです。

 

退職金や年金

 

公立保育園と私立保育園の退職金や年金についてはそれぞれ次のようになっています。

 

表3:公立保育園と私立保育園の退職金と年金制度の違い

 

退職金

年金

公立保育園

地方公務員と同額

共済年金

私立保育園

運営母体による

厚生年金・厚生年金基金

 

公立保育園の保育士は、地方公務員のため、退職金や年金は各自治体の基準に沿って支払われます。

共済年金は、厚生年金よりも高い額が支払われることが多いため、公立保育園での保育士は私立保育園の保育士より多くの年金を手にすることができます。

 

一方、私立保育園の保育士は、退職金は保育園の運営団体の方針によります。

退職金制度自体がない保育園もあるため、入社時に確認が必要です。

 

また、厚生年金と厚生年金基金の違いは、厚生年金は「公的年金」であるのに対し、厚生年金基金はいわゆる「企業年金」です。

厚生年金基金は、設立のための条件があり、運営団体が設立をしているのであれば、加入が可能です。

 

通常であれば、企業年金は公的年金よりも高い額になることが多く、厚生年金基金の加入者は厚生年金加入者より多くの年金を手にすることができます。

ただし、企業年金は運営団体の経営状態にも左右されることから、言い換えれば、私立保育園の保育士は普通の会社員と変わらないと言う事です。

 

転職

厚生労働省「保育士の現状と主な取組」によると、保育士の離職率は、全体で9.3%、公立保育園で5.9%、私立保育園で10.7%という結果でした。

公立保育園と比べて、私立保育園の保育士の離職率は、約1.8倍高くなっています。

 

公立保育園で働く保育士は、地方公務員となるため、給料面の安定が低い離職率につながっていると考えられます。

詳しくは、以下の表4のとおりになります。

 

表4:保育士の離職率

事業所区分

離職率

全体

9.3%

公立保育園

5.9%

私立保育園

10.7%

参考:厚生労働省「保育士の現状と主な取組

 

ちなみに、厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」のデータによると、社会全体の離職率は15.0%でした。

保育士全体の離職率は9.3%ですので、保育士よりも社会全体の方が5.7%も離職率が高くなっています。

 

再び、厚生労働省「保育士の現状と主な取組」によれば、勤続年数が14年以上の保育士の数は、私立保育園の23.6%なのに対し、公立保育園では42.7%と1.8倍高くなっています。

 

このデータから、公立保育園は私立保育園に比べ退職者が少なく、勤続年数の長い保育士が多いことがわかります。

この理由は、保育士の離職理由からも実態がわかります。

 

東京都が発表した「令和4年 東京都保育士実態調査 結果の概要」によれば、保育士の転職理由の上位は、以下のようになっています。

 

1位 給料が安い(61.6%)

2位 仕事量が多い(54.0%)

3位 労働時間が長い(35.4%)

※参考:東京都「令和4年 東京都保育士実態調査 結果の概要

 

つまり、退職理由の多くは、給与や仕事量の多さ、労働時間の長さなどが挙げられています。

公立保育園は私立保育園に比べ、定期昇給や公務員としての待遇が確保されていることに加え、人員も十分に配置されていることが多いことが離職率の低さにつながっていると考えられます。

 

では、離職した保育士はその後、どのような仕事についているのでしょうか。

前出の厚生労働省「保育士の現状と主な取組」によると、転職者のうち過半数(53.1%)が保育業界へ転職し、3割(30.0%)が他業界へ転職していることがわかりました。

 

つまり、約5割の方が保育士として業界内で働いていることになります。

私立保育園の中でも、給与や待遇が良かったり、満足な人員配置だったりする職場であれば、園を移って再び就業しているケースが多々あるようです。

 

そして、3割の方は他業界に転職しています。

実は、保育士の資格を持って活躍できる業種は、何も保育園だけではありません。

保育士資格を得るために学んだ知識や保育士としての経験は、子どもの成長を見守るあらゆる職種で活かすことができるのです。

 

>>「保育士の資格が活かせる保育園以外の仕事の種類と就職先」の記事を見る

 

将来性の有無

少子高齢化や労働人口確保のため、保育所の確保や保育士の活用は、ますます積極的に進むといわれています。

一方で、国の政策である公務員削減や社会福祉事業の民営化施策の影響で、保育所の民営化が自治体裁量にて進んでいます。

 

今後、公立保育園をなくす方針を定めた自治体も少なくありません。

そのため、公立保育園の保育士は、将来も安泰というわけにはいかなくなりました。

 

公立保育園が全て撤廃された後、公立の児童福祉施設などに空きがあれば、その施設への配属もありますが、配属が不可能な場合は、別の職種への転属が求められるでしょう。

その場合、公務員の立場は守られますが、保育士の仕事とは全く別の仕事となることを避けることはできません。

 

私立保育園の保育士については、保育所不足の解消に向けて新設される園や今後公設民営化された保育園などでの活躍が求められます。

保育士不足の解消のための待遇改善も国によって積極的に支援されていますので、今後働く環境や待遇なども良好になっていく可能性が高まっています。

 

公立保育園と私立保育園の保育士はどちらの方が良い?

 

公立保育園と私立保育園の保育士のどちらが良いということはありません。

どちらの園で就業したとしても、保育の仕事自体には変わりはないのです。

 

もちろん、公立保育園は、給与・待遇面から非常に続けやすく、勤務しやすい環境と言えるでしょう。

公務員という安定性や肩書きには、安心感もあります。

 

一方で、せっかく難関の公務員保育士試験を突破しても、今後なくなるかもしれないリスクがあることや、自治体に決められたルールの中でしか保育ができないという、裁量の狭さも考えなければなりません。

私立保育園では、給与・待遇面に多少の不安はありますが、待遇改善に向けて動いているところです。

 

産休・育休だけでなく、短時間勤務やライフスタイルに合わせた雇用形態など、私立保育園における今後の見通しは明るいと言えるでしょう。

保育園独自の保育方針や、柔軟な対応ができるということから、保育士としての理想を実現できる可能性も高く、やりがいは大きいかもしれません。

 

社会全体でも、ライフスタイルや仕事に対する考え方は変化しているので、必ずしも公務員が安心できるという環境ではなくなってきています。

そのため、公立保育園だから、私立保育園だからという選び方ではなく、あくまでも自分にあった働き方や、保育士としての実力が発揮できそうな園を選ぶことが大切です。

 

こんな人は公立保育園がおすすめ

公立保育園の保育士は公務員です。

公務員保育士試験に合格すれば、余程のことがない限り、年功序列で給与は上がっていきます。

 

最終的に公立の保育園がなくなったとしても、その雇用自体は確保されますし、退職金や年金など、将来にわたっての安定性は間違いありません。

公立保育園の保育士には、転勤がおよそ3〜4年に一度あります。

 

そのため、慣れた職場を離れても新しい環境にすぐに適応できる人が良いでしょう。

確実な安定性を求める方は、公立保育園がオススメです。

ただし、公立保育園の保育士になるには、公務員保育士試験に合格する必要があります。

 

公務員保育士試験は、倍率も高く狭き門のため、場合によっては就職浪人をする人もいます。

公務員保育士として働きたいという強い思いを持って、コツコツと勉強できる人が向いていると言えるでしょう。

 

こんな人は私立保育園がおすすめ

私立保育園は、独自の保育指針に従って運営されています。

中には、リトミックや英語、ダンスやアートなど、様々な特徴を持ったカリキュラムを取り入れた園もあります。

 

新しい体験や最新の保育を通じて、保育士のスキルを上げることができるのが私立保育園で働く最大のメリットと言えるでしょう。

また、私立保育園の場合、公立保育園と比べて異動があまりない事も特徴の一つです。

 

一度打ち解けてしまえば、職員同士がチームワークを発揮し、一丸となって仕事に取り組めるというのも私立保育園の保育士ならではです。

0歳で入園した子どもを卒園まで見届けることができ、保護者と成長を共有できることも魅力です。

 

私立保育園の保育士になるには、採用試験があるものの、公務員保育士試験を受ける必要はありません。

採用までに長い試験勉強期間や、配属までの順番待ちなどの手続きを経ることなく、ご自身で「この園で働きたい!」と思ったら、すぐに応募して思いを伝えることができるのも良いところです。

 

給与・待遇については、公立保育園と比べると劣って見えてしまいがちですが、やりがいや保育の多様性を重視する方は、私立保育園がオススメです。

 

公立・私立にとらわれず自分らしい働き方ができる職場を選ぼう

いかがだったでしょうか?

給与・待遇、働き方などにおいて、公立保育園の保育士の方が良いというイメージがあった方も多いのではないでしょうか。

 

報道やメディアからの情報で、私立保育園の保育士は待遇が悪く、離職率が高いなどの悪いイメージが先行していることもあります。

しかし、実際には保育士待遇改善の波を受け、今後の可能性や仕事の内容といった部分では、必ずしも公立保育園が私立保育園よりも良いというわけではない、ということがわかります。

 

保育士として、どのように働きたいのか、何を求めているのかを明確にし、公立保育園・私立保育園といった概念にとらわれず、自分にあった働き場所を見つけていくことが大切です。

 

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