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明日香、保育士配置基準見直しと保育の質向上に関する調査およびレポートを発表 約6割の保育士が、配置基準見直しによって『保育の質が向上する』と回答

2023/04/19
ニュースリリース

〜子どもたちを見る「目」の増加で、保育者同士の「コミュニケーション」の増加と「保育の質」向上のポジティブ連鎖に期待も〜

 

 子どもと未来、そしてすべての人がConnect(繋がり、結びつき)する保育研究プロジェクト「子ねくとラボ(https://konnect-labo.jp/)」を運営する株式会社明日香(本社:東京都文京区、代表取締役:萩野 吉俗、https://www.g-asuka.co.jp/index.htm)は、「保育士配置基準見直しと保育の質向上に関する調査およびレポート」を発表いたしましたので、お知らせいたします。

保育士配置基準見直しと保育の質向上に関する調査およびレポート

 

■保育士1人あたりが見る子どもの数が圧倒的に多い日本

 2023年3月1日、保育士などで作る団体が、長年改善されていない配置基準の改善を求める要請書を国に提出しました。この要請書提出は、世間を賑わせたバス送迎時の事故や保育士の虐待問題がきっかけとなっており、事故や問題が発生した原因の一つが「無理のある配置基準」にあると考えられています。

 

保育士などの団体 “配置基準の改善を” 国に要請書を提出

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230301/k10013995261000.html

 

 海外の保育状況と比べると、日本の場合は、3歳児20人に対して保育士が1人、4〜5歳児30人に対して保育士が1人という基準になっていますが、アメリカニューヨーク州では、3歳児は7人に保育士が1人、4歳児8人に対して保育士が1人、5歳児9人に対して保育士が1人となっています。ドイツでも、3歳以上は13人に保育士が1人と、大きく開きがあるのが実態です。

 

<保育士の配置基準|保育士1人に対する児童の数>

保育士配置基準見直しと保育の質向上に関する調査およびレポート

 特に、日本の4〜5歳児の配置基準に関しては、戦後70年以上という長い間、変更されていません。社会的状況や環境、生活スタイルや働き方、育児の方法は大きく変わり、発達障害を抱えている子どもの増加という実態もある中で、もはや現代の子どもにマッチした保育を行うことが困難な配置状況、配置基準になっています。このような状況に追い打ちをかけるように、保育士の不十分な処遇賃金の問題が重なり、厳しい労働環境の中で多発している事故事件を防ぐためには、早急に増員が必要であり、そのための条件を見直すよう要請が出されたという流れです。

 ただし、保育の現場では、このような事故・事件発生のかなり前から、配置基準の改善を求める声が挙がっていました。実際に、当社が行った調査(※)によれば、政府の保育士の配置基準見直しに関する発表に対して、6割以上の保育士が「期待している」と回答しており、配置基準が見直しされることによって、59.4%が「保育の質が向上する」との声があがっています。改善が期待できることとして、「今以上に子どもに寄り添うことができるようになる」や、「ゲガを減らし、安全性を確保できる」といった声も挙げられ、より良い保育実現への期待が高まっています。

<配置基準見直しの施策に、6割以上が期待>
<配置基準見直しの施策に、6割以上が期待>

 

保育士配置基準見直しと保育の質向上に関する調査およびレポート_Q3
<約6割が、「配置基準見直しによって保育の質が向上する」と回答>

 

 調査からもわかる通り保育の質向上を目指す上で、子どもたちを見る「目」を増やし、保育者同士のコミュニケーションや「ノンコンタクトタイム(保育士が子どもから離れて、事務作業を行ったり、保育者同士が情報交換をする時間のこと)」を増やすことは非常に重要です。今回の要請が起点となり、改善がされれば、保育士ひとり当たりの負担を軽減させるだけでなく、保護者への支援を強める足がかりになることでしょう。

 

(※)

調査概要:保育士配置基準見直しと保育の質向上に関する調査

調査方法:IDEATECHが提供するリサーチPR「リサピー®︎」の企画によるインターネット調査

調査期間:2023年4月7日〜同年4月10日

有効回答:現役保育士106名

※構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100とはなりません。

 

■配置基準見直しの実現は財源の確保がカギ

 岸田首相は「異次元の少子化対策」を掲げていますが、国として「量の拡充」から「質の向上」へとシフトしていき、具体的な施策の一つとして配置基準の見直しが盛り込まれていくのではないかと考えています。令和5年3月31日には、こども・子育て政策の強化についての試案が提出されました。保育士配置基準については、75 年ぶりの改善として以下の内容が言及されています。

・1歳児 6人に1人→5人に1人 

・4・5歳児 30人に1人→25人に1人

 この改善は運営費加算となることが4月4日の参議院内閣委員会での答弁にて明らかになりましたが、改善後の配置を着実に行える園とそれが困難な園との間に、様々な点で差が生じることは想像できます。

 実際に、配置基準以上の保育士を配置することによって、良質な保育を行っているという施設も存在しています。このような園が広まることによって、保育士にとって働きやすい環境が増えれば、理想とする保育の実現にも繋がっていくでしょう。

 

 ただし、「財源」という壁が立ちはだかっているのも事実です。今回の改善案では運営費加算での対応に留まることになりそうですが、国レベルでの質向上を目指す上では基準改定が欠かせないという声もあります。それが実現すれば、国内の全保育施設において職員配置の見直しが生じ、莫大な財源が必要となります。保育士一人ひとりの賃金を引き上げ、なおかつ人員を増やすためにどこまで財源が確保できるか。大きな鍵となっています。

 

■独自の配置基準を設けている保育園は32%

 株式会社コドモンが保育士を対象に行った調査(※)によると、「勤務先の配置基準は国の配置基準より手厚いかどうか」という質問に対して、回答は「手厚い」と「変わらない」がほぼ半数で二分しました。また、「勤務先は、配置基準以上に保育士を多く配置する基準を設けているか」という質問に対しては、32%が独自の配置基準、6割が基準通り、という結果になりました。特に乳児に関する配置基準は、現場では積極的に見直しが行われ、見る目を増やそうとする動きがみられます。画一的に配置基準をすべて増やしていくというよりも、必要な部分で人を増やす選択がされていると言えるでしょう。

 

(※)株式会社コドモン【調査レポート】保育士の配置基準問題 80%が「配置基準の改善は不適切保育の減少に寄与」と回答

https://www.codmon.co.jp/pressrelease/7711/

 

■コロナ禍で現場の保育士が実感した「保育の質」

 コロナ禍では、在宅ワークの増加や感染症予防から保育園に子どもを預けることを控えた家庭もありました。その結果、中には、普段よりも少ない子どもの人数を保育士1人で対応していた園もあったようです。子どもの数に対して充分な保育士がいる状況を体験した現場の保育士としては、それまで充分に子どもを見れていなかったこと、そして、保育士が充分にいることで子どもをしっかりと見ることができるということを、改めて実感したようです。コロナ禍での体験が、配置基準見直しへのムーブメントに繋がったとも言えます。

 

■配置基準が改善されても人手不足の課題が残る

 国としての配置基準見直しがされ、どの施設も人員を増やしていく動きになれば、保育の質が向上するだけでなく、様々な保育活動に力を入れることができるようになるでしょう。ただし、配置基準見直しにより、窮地に立たされる事業者が現れる可能性もあり、手放しでポジティブに捉えることは難しい状況です。例えば、すでに採用が難航し、人手不足に悩んでいる園から、業務の軽減を求めてより多くの保育士が在籍してる園に人材が流出してしまうこともあるでしょう。万が一、人材が流出し、配置基準を下回ってしまえば、運営自体ができなくなるリスクもあります。最近でも、保育士の一斉退職によって、運営が成り立たなくなった事例がありました。

 

配置基準改善によって、利用者は園の比較検討ポイントが増える

 事業者としては、利用者から自分たちの保育施設がどう見えるかという点も重要な視点として考えなくてはなりません。配置基準をしっかりと満たし、保育士の多い施設が利用者にとって魅力的であると位置付けられてしまえば、当然そちらに利用者は流れていきます。事業者は、保育者の「数」を打ち出すのか、保育の「質」を打ち出すのか、もしくは、それ以外の魅力とは何なのかについて突き詰める上で、配置基準の改善という動きは、選ばれる園になるためのポイントが増えるということになります。保育施設のアピールの仕方に関しても、変化が訪れると予想しています。

 

■ノンコンタクトタイムが増えれば、保育者同士の質の高め合いにもつながる
保育士配置基準見直しと保育の質向上に関する調査およびレポート
<参照:OECD 保育従事者調査2018報告書>

 

 また、日本は他国と比較して保育者間同士でのフィードバックが少ないことも課題として挙げられます。OECD(経済協力開発機構)の保育従事者調査2018報告書によると、保育者間の協働に関する調査で、「他の保育者の実践についてのフィードバックを与えること」を毎日行っている日本の保育者は10%以下、週に1回行っている保育者も20%以下でした。この項目において、日本は9カ国で最下位となっています。これは保育業界に限らず、他人に対して直接意見をしにくい国民性の現れかもしれませんが、人員の配置条件が妨げになり事務作業に追われている結果、保育をした後、保育者同士で「これはどうだった」、「次はこうやっていこう」などの話し合いをする時間が持てていないという可能性もあります。フィードバックの時間を設けることは、指摘をし合うだけでなく、お互いの良いところを称賛し合い、真似をし、全体としての質を高める効果があります。配置基準の改善が実現されれば、ノンコンタクトタイムが増え、保育者同士が双方をより高め合うといった動きにつながることも期待できるでしょう。