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【2022年日本人出生数、過去最少77万人】少子化が与える保育事業者への影響とビジネスチャンスとは? AIなどの最新技術が保育分野にもたらす可能性

2023/08/04
ニュースリリース

<明日香「出生率発表に伴う保育レポート」を発表>不適切保育のニュースをきっかけに、保育園現場で「子どもへの叱り方」を気にするようになった保護者は52.7%

 

 子どもと未来、そしてすべての人がConnect(繋がり、結びつき)する保育研究プロジェクト「子ねくとラボ(https://konnect-labo.jp/)」を運営する株式会社明日香(本社:東京都文京区、代表取締役:萩野 吉俗、https://www.g-asuka.co.jp/index.htm)は、「出生率発表に伴う保育レポート」を公開いたしましたので、お知らせいたします。

株式会社明日香「出生率発表に伴う保育レポート」

■保育士不足が引き起こす、深刻な課題

厚生労働省が発表した人口動態統計(※1)によると、2022年の出生率が統計を始めた1899年以降で最小の77万人となり、初めて80万人台を割り込みました。合計特殊出生率は1.26に低下し、少子化が加速しています。厚生労働省人口動態・保健社会統計室では、コロナ禍が出産育児に対して不安を感じさせ、影響を与えた可能性があるとの見方を示しています。

出生数が減少することで、保育事業者が最初にリスクとして浮かぶのは、利用者の減少、すなわち保育料収入の減少です。政府は令和7年に利用者数がピークを迎えるという見込を発表していますが、利用者が減れば、保育事業所の存続も危うくなる可能性があると考えられます。また、同時に考えなければならない少子化の影響は、新卒保育士の減少です。指定保育士養成施設の学生の数も減少傾向にあり、このような状況下で貴重な保育士をどのように育成して定着を維持するかが大きな課題となります。

しかし、保育士不足の問題は、業務負荷の増大によって人材育成を充分に行いづらい状況も生み出しており、保育士間の知識や技術力のバラつきに繋がるリスクもあります。保護者からすれば、ベテランも1年目も新卒も非常勤も「先生」であることに変わりはありません。しかし、実情として保育士一人ひとりの知識力・技術力には差があり、同施設内の保育士であっても、人によって子どもや保護者との接し方に差異があることも少なくはありません。これは保育士それぞれの人柄や個性も含まれるため、決して一概に否定するものではありません。ただ、これだけ報道で「不適切保育」が叫ばれている今、利用者からの”見る目”は厳しくなってきています。「あの先生は経験が浅いからこんな対応なのでは」など、本来は非難されるべきではないことで憶測が出て、保育士に対する、もしくは保育園に対する批判的な見方が強まっていくことは避けたいところです。

 

これからの保育士育成とAIの可能性

新人(新卒)保育士の育成プログラムは、事業者の体制によってかなり異なります。先輩保育士がつきっきりで指導し、慣れてきた頃にようやく担任としてデビューする、というような形をとっているところもあれば、本部から育成係が現場に赴くというところもあります。いずれにせよ、保育士の育成はOJT(On-The-Job Trainning)が一般的となっていますが、その中には職員配置数がギリギリという理由から、導入研修等を実施する余裕が無く、入職直後から実践の中でしか教育できないといった園も存在します。また、教育係というのは、園長であったり、主任、クラスリーダーといった管理職が担うケースもあり、基本的にこれらの管理職も多くの業務を抱えているため、新人教育だけを行う余裕がないケースも少なくありません。

業界全体として保育士が不足している現在、新人(新卒)保育士は即戦力として期待されています。一方、新人(新卒)保育士は、自身の成長を支えてくれる態勢を組織に求める傾向があります。そのため、相互の”期待”に差異が生じてしまった場合、最悪の場合早い段階で退職というケースも出てくるでしょう。保育学生の減少が進行する中、新人教育のあり方にも変化が求められているのかもしれません。

2015年に野村総合研究所が発表した「人工知能やロボット等による代替可能性が低い100 種の職業」(※2)に保育士や幼稚園教員が入っていたことは、業界内でも話題になりました。しかし、保育士の質のばらつきをなくすという観点においては、AIが過去の様々な実践事例や保育知識を瞬時に分析し必要な情報を提供する役目を担った場合、保育士の人材育成にも変化が生じることが考えられます。もちろん、全部ではなく一部においてですが、これまで教育担当者のスキルや情報量に頼っていた部分が、AIを通すことで属人化されない人材育成を実現できるかもしれません。

 

不適切保育問題によって変化が生じた選ばれる保育園の要素と基準

2年ほど前までは、選ばれる保育園としての一つの要素として、多様な保育ニーズへの対応や魅力あるカリキュラムの導入といったものがありました。そして今ここに来て、各メディア等で「不適切保育」について過剰気味に報道されるようになり、世間の視線を集めることになりました。間違いなく、子どもの人権を無視するような不適切な保育はあってはならないことです。ただ、この状況をきっかけに、利用者が園を選ぶポイントは、「しっかりと保育を行えるか」「モラルや倫理感のある保育士がいるのか」という、これまで必然とされてきたところに移っている傾向があります。

実際に、保育園に子ども(0歳から小学校入学前まで)を預けている保護者を対象に実施した調査(※3)によれば、不適切保育のニュースをきっかけに、保育園現場で「子どもへの叱り方」を気にするようになった保護者は52.7%おり、「子ども一人ひとりの人格の尊重」や「物事を強要しない配慮」などを保育士に求めるようになったこととして挙げています。

Q1

<保育現場で「保育士の子どもへの叱り方を気にするようになった」が52.7%>

 

Q2

<保育園に「人格の尊重」や「物事を強要しない配慮」を求めている実態>

 

コロナ禍の対応として、行政の立ち入り検査を文書化しようというような動きもありましたが、簡略化は慎重に進めないと質の低下を招くという懸念もあります。コロナ感染が落ち着いたタイミングで、もう一度「質の良さとはなにか」「魅力とはなにか」、そしてそれをどう伝えていくのかという点は大きなポイントとして考えていくべきでしょう。

 

少子化は育児の視点や幼児教育への要求水準にも影響

選ばれる保育園の要素に変化が生じた一方で、保護者側の育児に対する意識にも変化が生じているようです。例えば、少子化対策の一環として行われている幼児教育・保育の無償化によって家庭の経済的負担は軽減された裏で、”浮いた保育料”を通園する保育園以外の教室や習い事の費用に転用し、子どもの教育の機会を増やす家庭も都心で見られるようになりました。小学校就学以降を見据えた行動でもありますが、そういった意味では、小学校教育から遡って、幼稚園や保育園が行う幼児教育に注目が集まるのも当然です。そのため、保護者が保育園に求める水準や期待も高まっているわけですが、VUCA時代と言われる社会状況の中、「個性や強みを持てているのか」「どんな環境であっても生きていける力があるのか」など、保護者の子どもを育てる上での視点に変化が生じています。

同調査(※3)でも、子育てに際する子どもとの接し方において、93.6%の保護者が社会的に求められている水準が高まっていると実感していることが分かりました。

Q3

<9割以上が「社会的に求められている水準が高まっている」と回答>

 

■少子化を逆手に新たなチャレンジの機会を得る

保育事業者の経営目線としては、利用者が減るということは危機的状況にありますが、在園児数が減ったとしても、定員数に応じた保育士の配置数が定められているため、従事する職員の数は変わりません。このような状況を受けて保育士はこれまでできなかったチャレンジの機会を得ることができるとも考えられます。

従来の施設運営だけでは、従来のアイデアしか出てきません。ただ、保育分野の側面として、新たな分野や実績のない領域へ踏み出すのに抵抗があるのも事実かと思います。しかし、AI技術なども含めて、他業界の技術や知識など、さまざまなものを保育業界に取り入れて取り組むことで新たな価値創出の可能性もあります。拡がっている保育業務のICT化はその一例でしょう。少子化の影響を受けて利用者減少に直面する中、それをどう捉えてその先に向けてどう動いていくか。この状況を乗り越えるためには、発想力と行動力が必要です。当たり外れがあることは当然と捉え、積極的にトライアンドエラーを繰り返していく姿勢こそが、子どもの自主性や忍耐力、そして生きる力を育む源になるのではないでしょうか。

 

※1|厚生労働省|令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/index.html

※2|野村総合研究所(NRI)|「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf

 

※3|不適切保育と社会的水準に関する調査

調査機関:株式会社明日香

調査方法:IDEATECHが提供するリサーチPR「リサピー®︎」の企画によるインターネット調査

調査期間:2023年7月21日〜同年7月22日

有効回答:保育園に子ども(0歳から小学校入学前まで)を預けている親109名

※構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100とはなりません。

 

■レポート執筆|「子ねくとラボ」所長|末廣剛プロフィール

明日香 末廣

末廣 剛(すえひろ つよし)

子ねくとラボ 所長

選ばれる園づくりコンサルタント

Advanced Marketer(公益社団法人日本マーケティング協会公認)心理カウンセラー

<経歴>

 立命館⼤学卒業後、渡英しサブカルチャー/エンタメビジネスを研究。現地の児童支援施設等にてイベント企画・運営を行い、自身もパフォーマーとしても活動。その後、広告代理店等の勤務を経て、保育業界に。人材コーディネーター、⼈事・採⽤、新規園開設、広報、教育研修など、保育・子育て支援事業における多岐分野に携わり、⾯接・⾯談を⾏った保育⼠数は新卒から園長クラスまで延べ1,200⼈以上。

 保育所運営における広報戦略と組織構築の重要性を強調。「子どもファースト」をモットーに、保育士が輝き続けられる環境を構築するため活動中。プライベートにおいても育児奮闘中。(※自治体主催セミナー、保育士等キャリアアップ研修講師、SDGsイベント等出演)