【令和5年4月|待機児童数2680人】待機児童解消のキーワードは「保育人材の確保」
明日香、待機児童数発表を受け「見解レポート」を発表!【保育園調査】約9割の保育園が「少子化が続けば、今後経営難に陥る危険がある」と危惧
子どもと未来、そしてすべての人がConnect(繋がり、結びつき)する保育研究プロジェクト「子ねくとラボ(https://konnect-labo.jp/)」を運営する株式会社明日香(本社:東京都文京区、代表取締役:萩野 吉俗、https://www.g-asuka.co.jp/index.htm)は、内閣府子ども家庭庁が発表した「令和5年4月時点|待機児童数(※1)」を受け、見解レポートを公開いたしましたので、お知らせいたします。
■「令和5年4月時点|待機児童数は2680人」の発表を受けて
令和5年4月時点の待機児童数は2680人(前年比264人減 ※1)ということで、確かに減ったものの、 昨年の前々年比2690人減少と比べると、大幅に減少率が下がっていることがわかります。おそらくここが待機児童解消の限界点ではないかと考えています。これ以上の減少のためには保育施設の増設が欠かせません。しかし、現時点で全国的に定員充足率は低下傾向にあり、”空きのある保育施設”が増加しています。この状況が悪化すると経営難に陥る事業者が現れ、撤退を余儀なくされるという状況に直面するでしょう。保育施設の運営事業者・採用担当者・園長を対象にした調査(※2)においても、現在「定員割れしている」「定員とほぼ同数の児童がいる」保育園の約9割が「少子化が続くことによって、今後経営難に陥る危険がある」と回答しています。実際に、大手保育事業者による認可保育所の他法人への譲渡など、経営資源としての「集中と選択」が積極的に行われている状況です。 今後、「隠れ待機児童」をどう捉えるかも受け皿整備に影響を与える争点となると感じています。
<約9割の保育園が、「少子化が続くことによって、今後経営難に陥る危険がある」と回答>
■待機児童解消とその先
こども家庭庁によると(※1)、これだけ待機児童数が減ったにも関わらず、解消できなかった地域には理由があると示しています。大きな理由の一つとしては、保育ニーズが地域的に偏在していること。二つ目に、想定以上に利用者が増えてしまった、もしくは計画していた定員数を超えてしまったこと。三つ目に、保育人材の確保が困難ということ。保育施設がしっかり整備されたにも関わらず、そこで働く人が揃っていないというような状態ということです。この保育人材の不足は、少子化も大きな要因となっているでしょう。少子化により学生の数が減少し、経営難に陥る一般大学や短大が現れる中、保育士を排出する指定保育士養成施設、いわゆる養成校の中にも当然ながら影響を受けている施設があり、新たな保育士の成り手の減少に繋がっています。実際に、約8割の保育園で、新卒保育士の入職または入職希望者が「減少している」実態もあるようです(※2)。つまり、これまで見込めた新卒保育士の採用が困難となる中、新たに保育人材を確保するためには、資格は有しているが社会福祉施設等で従事していない保育士、いわゆる潜在保育士に期待を寄せざるを得ないということです。各自治体では、この潜在保育士の復職等を促す取り組みが積極的に行われています。しかし、令和2年10月時点で全国約100万人存在するとされ毎年その数が増加している(※2)通り、目に見えるような効果を得られているとは言えない状況です。そんな中で、さらに保育施設を増やすことが求められても、保育人材が揃わないのは当然の流れとも言えるでしょう。
<約8割の保育園で、新卒保育士の入職または入職希望者が「減少している」実態>
この通り、少子化は保育人材の確保にも影響し始めている状況ですが、この深刻な少子化を止めるには、全ての家庭にとって子育てしやすい環境を整備すること、いかなる家庭状況であっても保育サービスを利用できることが不可欠であり、認定区分の在り方にもその課題範囲は及びます。それに関連して、政府が少子化対策の一つとして「こども誰でも通年制度」を挙げており、本格実施に向けてモデル事業が拡充されています。しかし、そこにも結局課題として挙がってきたのが、対応する保育人材の確保です。これまで様々な議論がされてきたわけですが、多様な保育ニーズに応えることと、人材不足の解消を同時に行う抜本的な改革が、より一層求められていると言えます。
■高まる保育ニーズとつきまとう課題
相次いで起きてしまった重大事故や報道が連日のように続く不適切保育の問題なども背景に、政府は「こども未来戦略方針」の中で、「保育の質向上」について強調しました。すなわち、「量の拡大」から「質の向上」にシフトしたとも言えます。具体的な施策として、戦後ずっと変わらなかった配置基準の改善に触れ、更なる質向上を実現するため積極的な方針を打ち出しました。「改訂」でなく「改善」に留まっていることは課題が残りますが、子どもたちが安心・安全に育つことができる環境を考えれば、評価したい施策だとも言えるでしょう。
しかし、忘れてはいけないのは、配置基準が改善されれば、当然ながらさらなる人材確保が求められます。上記で、施設を増やしたり新たな預かり機能を増やすための人材確保が困難であることに触れましたが、既存施設における更なる質向上を目指すにも、保育人材の確保が大きな課題となっています。
以上のことを整理すると、「質の向上」にシフトチェンジした今、新たな人材確保を要する待機児童対策は難しく、加えて、出生数の減少が止まらない背景から定員を満たせない保育施設が増加しています。実際に、24.3%の保育園で「定員割れしている」実態も明らかになっています(※2)。つまり、ここ数年の間に見られた保育施設の”開設ラッシュ”は終わりを迎え、次のフェーズへ突入するでしょう。しかし、共働き世帯の増加(※3)だけでなく、障害児や医療的ケア児に対するインクルーシブな支援(※4)など、保育ニーズ自体は多様性を伴ってさらに高まっています。
<24.3%の保育園で「定員割れしている」実態>
このように需要と供給がアンバランスな状態においては、子どもたちの人権を大切にしながら健全な育成に繋がる保育をひたむきに取り組んでいる現役保育者の定着が、まずは絶対的に崩せない要素となります。
今では、不適切保育関連の相次ぐ報道により保育現場に対して疑念やチェックの目が厳しい状況にありますが、不適切保育や虐待は断じて許されるべきではないことを大前提として、全国約4万近くある保育施設の中には素晴らしい取り組みを行っている施設もたくさん存在し、その情報が世間の目に触れることは少ないのが実態です。コロナ禍においては、エッセンシャルワーカーとして社会的に重要な位置づけとされた保育者ですが、今一度、保育人材の確保について、優先度を下げることなく具体的な施策をもって取り組むことを政府には期待したいです。
※1|内閣府子ども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和5年4月1日)及び「新子育て安心プラン」集計結果を公表」https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/f699fe5b-bf3d-46b1-8028-c5f450718d1a/8e86768c/20230901_policies_hoiku_torimatome_r5_01.pdf
※2|保育施設の定員割れに関する実態調査
調査期間:2023年10月23日〜同年10月25日
有効回答:保育施設の運営事業者・採用担当者・園長70名
https://drive.google.com/file/d/1LDVCokAJM7dS9fFV9WaOW1bp_WJJsfyX/view
※3|厚生労働省「図表1-2-64 保育士の登録者数と従事者数の推移」https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/21/backdata/01-01-02-64.html
※4|厚生労働省「図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移」
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/02-01-01-03.html
※5|こども家庭庁「障害児支援」https://www.cfa.go.jp/policies/shougaijishien/
■レポート執筆|「子ねくとラボ」所長|末廣剛プロフィール
末廣 剛(すえひろ つよし)
子ねくとラボ 所長
選ばれる園づくりコンサルタント
Advanced Marketer(公益社団法人日本マーケティング協会公認)心理カウンセラー
<経歴>
立命館⼤学卒業後、渡英しサブカルチャー/エンタメビジネスを研究。現地の児童支援施設等にてイベント企画・運営を行い、自身もパフォーマーとしても活動。その後、広告代理店等の勤務を経て、保育業界に。人材コーディネーター、⼈事・採⽤、新規園開設、広報、教育研修など、保育・子育て支援事業における多岐分野に携わり、⾯接・⾯談を⾏った保育⼠数は新卒から園長クラスまで延べ1,200⼈以上。
保育所運営における広報戦略と組織構築の重要性を強調。「子どもファースト」をモットーに、保育士が輝き続けられる環境を構築するため活動中。プライベートにおいても育児奮闘中。(※自治体主催セミナー、保育士等キャリアアップ研修講師、SDGsイベント等出演)