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【2023年合計特殊出生率、過去最低1.20】「子ねくとラボ」が「保育の今とこれから」を読み解く

2024/08/05
ニュースリリース

多様性・インクルーシブ保育など、保育士への期待が上がる一方、少子化による園児減少と保育士不足...これからの保育業界はどうなる?

 2023年の合計特殊出生率が、過去最低の1.20と発表がありました。保育施設及び、それ取り巻く現状や今後について、株式会社明日香(本社:東京都文京区、代表取締役:萩野 吉俗、https://www.g-asuka.co.jp/index.htm)が運営する子どもと未来、そしてすべての人がConnect(繋がり、結びつき)する保育研究プロジェクト「子ねくとラボ(https://konnect-labo.jp/)」所長の末廣剛が見解レポートを発表しました。

子ねくとラボ

 

■2023年合計特殊出生率、過去最低1.20の発表を受けて、保育業界への影響は?

 厚生労働省が発表したレポート(※1)によると、2023年の1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる「合計特殊出生率」が、1.20と過去最低を記録し、8年連続で前年を下回る結果となりました。令和2年から3年にかけて0.03ポイント減、令和3年から令和4年にかけて0.05ポイント減、令和4年から令和5年にかけて0.06ポイント下がっています。つまり、下げ率が年々広がっている。国が推進する、いわゆる「異次元の少子化対策」というのは、令和5年に入ってから発表されたものなので、仮にこれ自体が上手く機能しても今年もしくは来年以降の出生数に反映されることになるわけですが、これまでも政府は少子化対策を行ってきたわけで、その結果として食い止めるどころか皮肉にもさらに勢い付けてしまっているというのが現時点での状況です。都道府県別に見ると、最も低かったのは東京都の「0.99」という数値で、とうとう「1」を下回ったことが話題になりました。これに関しては、東京都の対象年齢の女性人口数や転入数を考慮すると、合計特殊出生率の計算上においては、他地域より下がるのは致し方ないところもあるのですが、ただ、その一因ともされているのが婚姻率の低下で、こちらも過去最低を更新している状況です。

 

 では、実際に日頃から子どもや育児中の保護者と関わっている保育士は、出生率低下の事実に対して、どう捉えているのでしょうか。保育士を対象にした「出生率に関する保育士の意識調査※2」では、約7割の保育士が、働いている中で「出生率の低下を実感することがある」と回答しており、出生率の低下の主な原因として「育児に対する経済的負担の懸念」(67.9%)や、「育児に対する精神的負担の懸念」(35.8%)を挙げています。

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 また、自由回答では、「39歳:生き方が多種多様になり、自由を求める人が増えた。」や「39歳:結婚=幸せというのが今では結婚以外の幸せも認められつつあるからじゃないか。」といった声も寄せられており、正に「多様性」を尊重する社会の風潮を示しているように感じますが、ここで一つ、あるジレンマが生まれています。思い返してみると、「多様性」を尊重する風潮に社会全体がある中で、何らかの理由で「結婚しない」「子どもを持たない」というライフスタイルを選択することも多様性の一つと言えるはずですが、強まる政府の少子化対策は、社会風潮や国民感情との間にギャップを作っているようにも感じます。

 

■「少子化施策」と「多様性」の矛盾

 少子化の影響により保育所利用児童数がピークを迎える、いわゆる「2025年問題」を目の前にして、保育・教育業界というのは確実に危機的な状況に直面していくわけですが、他業界で言うと、医療業界でも小児科や産婦人科など、少子化によって経営難に陥る可能性は考えられます。そういった医療サービスが不十分な状態になれば、子どもたちの健康維持にも不安を抱えることになり、ますます育児を困難なものにしてしまう恐れがあります。また、不動産業界などもファミリー層の需要が変化して、戸建ての減少といったことも想定されるなど、消費市場全体で縮小を余儀なくされてしまうでしょう。そういった危機的状況を考えると、緊急措置として金銭面での暫時的施策も悪いとは思いませんが、金融政策とはワケが違いますので、今起きている少子化の根本的理由に真正面から向き合わないかぎり、何年も続く少子化の呪縛から解放されないのではないでしょうか。そこには、先ほどお伝えした通り、「多様性の尊重」を重んじる社会的風潮があります。従来の形式や古い枠組みにこだわり、国民、特に若年層の実態や志向に見合った少子化対策が行えないようだと、今後も改善は難しいでしょう。しかし、実はこの「多様性の尊重・対応」と併せて、少子化抑止の一翼も担っている社会的にエッセンシャルな場がこの国にはすでに存在しているのです。それが保育現場です。子どもたちの家庭環境や心身的な特徴の違いを多様な個性として捉えて、ひとり一人の子どもたちを大切に育て上げるという保育が、今主流になっています。

 

 要は一種のパーソナライゼーションというふうにも言えると思います。保育に限らずこの顧客最適化というのは現代ビジネスにおいて重要とされ、国民の生活様式もそういった枠組みの中で形成されていると言えます。果たして、「異次元の少子化対策」が、国民が抱く真の課題に向き合っているものなのか、今年度以降、その成果を注意深く見たいところです。あわせて、民間レベルにおいても、多様性の尊重と少子化抑止が一つになった取り組みがさらに拡がることに期待したいです。例えば、産休育休制度や育児休業制度といった親子の健康保護や経済的支援を目的にした制度の導入はすでに一般的となり、昨今は男性従業員の取得率上昇を目指す事業者が、大企業を中心に増えてきました。しかし、課題は他にもあります。キャリア形成・維持の問題です。誰であっても、能力に応じて同じようにキャリア形成の機会を得られるような雇用環境や仕組みがもっと広がると、子どもを産むこと・育てることに対するハードルを下げる要因になるのではないでしょうか。

 

 子どもをもつ親を支える立場として、保育士にも聞いてみました。同調査※2の中で、52.9%の保育士から、「保育士として出生率向上に貢献できることがある」と前向きな声が聞かれており、具体的に貢献できることとして、保育士としては、「保護者の相談に乗り、育児のストレス軽減を図る」(71.4%)、保育施設としては、「安心して預けられる職員体制」(61.3%)がそれぞれ最多の意見となりました。今こそ官民一体となって危機に立ち向かう必要があるように思われます。

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■外国籍ダイバーシティ、インクルーシブ保育への対応の裏にある、保育士の働き方の多様性

 少子化が加速しているとはいえ、経済的理由などもあって共働き世帯は増加しており、保育ニーズ自体が高い状態であることは変わりません。また、ひとり親家庭や外国籍家庭、障がいを抱える子どもなど、保育ニーズの多様性も拡がり続けています。ここは今後も特に大きな変化はないと考えます。

 

 例えば、これは0歳〜5歳の発達障がいを抱えている子どもを持つ保護者側に聞いた調査(※3)ですが、96.0%の保護者から、障がいを1つの個性・多様性として捉える「インクルーシブ保育」を保育者側に求める声が挙げられています。

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 こういった保育ニーズの多様性が拡がる中で、保育事業者・保育者側は多様化・複雑化するニーズに応えることが求められます。そういった受け皿を築くには、保育者の人材育成の方法や雇用の在り方においても、様々な変化が求められていくでしょう。これに加え、直近では保育士の配置基準改善が進んでいますが、質向上のために保育人材は数的にもさらに必要とされる傾向です。子どもたちひとり一人に向き合った保育を実践するためには、保育人材の確保は絶対不可欠ですが、人材確保の本来の意味は、新規採用だけではなく、既存メンバーの定着・維持も含みます。拡がり続ける多様性への対応が、保育業務を複雑化させてしまわないか、またはそれによって成り手の減少に繋がらないか、新たな課題となる可能性もあります。

 

 当社が、外国籍園児を保育した経験がある保育士104名を対象に実施した調査(※4)でも、外国籍園児の保育に関して、96.1%の保育士が、「難しさを感じたことがある」と回答しており、具体的には「指示が伝わらない」(56.0%)、「保護者との連携が取れない」(49.0%)、「話しかける言語が分からない」(42.0%)などが挙げられています。

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 さいごに、政府は、他国に遅れをとっている日本のグローバル化(※5)の理由の一つに、グローバルな視野を持った人材の不足を挙げています。国民生活を豊かにするためにもグローバル化は急務とされてきたわけですが、この課題に対して、幼少期の頃から保育園などで当たり前のように多様性に触れるようになった現代の子どもたちは、将来、とてつもなく大きな可能性を秘めていると言えます。そういった意味では、保育現場が、国をより良い方向へ変化させていく重要な起点になっていくとも言えるでしょう。

 

 大げさな話に聞こえるかもしれませんが、保育現場において様々な課題が存在することは事実です。報道にもあるように深刻な問題も存在します。しかし、子どもたちのウェルビーイング実現を第一に、日々弛まぬ努力を続けている保育現場は、全国にたくさん存在します。今一度、保育者が安心して果敢にチャレンジできる環境の構築を、国に期待しています。

 

※1:厚生労働省|令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai23/dl/gaikyouR5houdou.pdf

 

※2:出生率に関する保育士の意識調査|概要

調査方法:IDEATECHが提供するリサーチPR「リサピー®︎」の企画によるインターネット調査

調査期間:2024年7月22日〜同年7月24日

有効回答:勤続年数3年以上の常勤保育士106名

 

※3:発達障がいの子どもへの接し方に関する意識調査

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000119.000043389.html

 

※4:【2024年版】外国籍園児への保育課題に関する定点調査

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000122.000043389.html

 

※5:文部科学省|第3章 我が国の現状と課題

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/014/attach/1283148.htm

 

■レポート執筆|「子ねくとラボ」所長|末廣剛プロフィール

末廣

末廣 剛(すえひろ つよし)

子ねくとラボ 所長

選ばれる園づくりコンサルタント

Advanced Marketer(公益社団法人日本マーケティング協会公認)心理カウンセラー

 

<経歴>

 立命館⼤学卒業後、渡英しサブカルチャー/エンタメビジネスを研究。現地の児童支援施設等にてイベント企画・運営を行い、自身もパフォーマーとしても活動。その後、広告代理店等の勤務を経て、保育業界に。人材コーディネーター、⼈事・採⽤、新規園開設、広報、教育研修など、保育・子育て支援事業における多岐分野に携わり、⾯接・⾯談を⾏った保育⼠数は新卒から園長クラスまで延べ1,200⼈以上。

 保育所運営における広報戦略と組織構築の重要性を強調。「子どもセンタード」をモットーに、子どもはもとより保育士も輝き続けられる環境を構築するため活動中。プライベートにおいても育児奮闘中。(※自治体主催セミナー、保育士等キャリアアップ研修講師、SDGsイベント等出演)