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2021年、待機児童ゼロ化と少子化加速で保育は「量」から「質」へ 参入企業やM&Aが増え保育市場の競争は激化 〜株式会社明日香、保育業界に関する2021年上半期総括および下半期展望を発表〜

2021.06.30ニュースリリース

総合保育サービスを提供している株式会社 明日香(本社:東京都文京区、代表取締役 :萩野 吉俗、以下 明日香)は、子どもと未来、そしてすべての人がConnect(繋がり、結びつき)する保育研究プロジェクト「子ねくとラボ」より保育業界に関する「2021年上半期総括および下半期展望」を発表いたしました。

 

 

■選ばれる施設になるべく量から質へと方針転換

2021年上半期を振り返ると、2つの社会的な動きが業界に大きなインパクトを与えました。1つ目に、2021年4月から「新子育て安心プラン」がスタートしたこと。2つ目に、「保育所の利用児童数が2025年にピークを迎える」と発表されたことです。どちらも厚生労働省によるものですが、現場では不安の声が出ているのも事実です。

 

1つ目の「新子育て安心プラン」は、待機児童の解消を目指すとともに、女性の就業率の上昇を踏まえた保育の受け皿整備や、幼稚園やベビーシッターを含めた地域の子育て資源の活用を進めるためのもので、2024年度までの4年間で約14万人の整備を想定しています。

 

しかし、2つ目の「保育所の利用児童数が2025年でピークを迎える」ということは、2026年以降は需要と供給のバランスがすぐに逆転しかねません。コロナ禍による社会不安やふれあいの減少により、以前から叫ばれていた少子化が一層加速するだろうという懸念もあります。

 

つまり、選ばれる保育施設にならなければ施設経営の持続性を失う可能性を示しているのです。となれば、保育施設も「量」から「質」へと変化する視点が欠かせません。この方針転換への布石が、2021年上半期の一大トピックだと言えるでしょう。



■多様化する保育ニーズへの対応で差別化をアピール

この流れの中で、保育事業の上場企業では、施設の拡大路線を控える傾向も見られます。とはいえ、上場企業は株主への還元がミッションのひとつです。利用者のピークを迎えると報じられた今、施設数を増やさずにどう事業拡大していくか、というのは今後の保育業界の大きなポイントだと言えるでしょう。

 

業界の市場規模は0.14兆円であり、すなわち1500億円弱の規模です。売り上げ10億円以上の主要企業14社のデータをまとめて他業種と比較すると、160業界中155位で全体から見ると小規模です。とはいえ、伸び率と利益率は10位以内に入る成長市場で、社会的ニーズもあって安定していると言えます。

 

構造の特殊な点は、保育所でみると経営主体の85%が社会福祉法人で、営利法人による運営は平成29年度では5%程度という点。成長市場ということで新規参入する企業も増えてきていますが、いまだ社会福祉法人が多数です。これは、企業運営は倒産リスクがあるという考え方、またビジネスと保育との結びつきが理解されにくい感覚が企業参入を阻んできたからです。そういったことから自然と株式運営の保育事業主は経営の健全面を強くアピールし、安心を訴求する傾向が強くなります。株式上場も、採用におけるひとつのアピールポイントと言えるでしょう。

 

保育は施設の「量」から内容の「質」へ。この動きが顕著になったきっかけは、2017年改訂、2018年に施行された新たな保育所保育指針において、保育所が幼稚園や認定こども園と並んで「幼児教育を行う施設」と明記されたことにあります。これは小学校における学習指導要領の改訂(2020年)を見据えたもので、幼保小の連携を強める動きでもあります。それ以前は福祉施設と教育施設の異なる立場のもと連携が取り組まれていましたので、この改訂により保育所の在り方自体が変わったと言えます。

 

ただ、「教育」というワードに拒否感を持つ現場保育士が一定数存在することや、保育所と幼稚園で行われている保育内容・考え方の違いについて理解しづらい利用者が存在することも事実です。そんな中、幼児教育・保育の無償化が2019年に始まり、保育の利用を促す一方、一定の保護者は無償化によって浮いた費用を通園する施設以外の教育施設に回すケースも発生しました。

 

2020年から始まった小学校におけるプログラミング教育必修化や、文部科学省推進の「EdTech」「STEAM教育」など、時流を反映させながら子どもたちの生きる力を養う教育を国は促進していますが、保育所においても「選ばれる施設」となるために幼児教育をどう取り入れ、いかに利用者にアピールするか、柔軟性や発信力が課題となります。ただ、そこには日々の保育業務に負荷が掛かるのでは、というジレンマがあることも否めません。

 

企業の新規参入やM&Aが働き手の環境向上の一助になる

保育事業を行う企業の中には、M&Aやホールディングス化の流れも見られます。しかも企業の中には、保育施設の拡充以外に、教育コンテンツや介護事業への参入など、福祉全般に広げる傾向があります。これは、保育を基点として周辺領域に事業を広げていく思惑があるということです。

 

さらに厚生労働省の「保育所の利用児童数が2025年にピークを迎える」というニュースにより、企業主体の運営の仕方も変わってくるでしょう。先述の通り拡大を控える傾向以外に、定員充足率が伸びない施設は定員数を縮小する可能性も考えられます。そういった中、保育施設を増やす以外の方法で業績を伸ばし、株主への評価を獲得していくためには、質を上げたり別のコンテンツで勝負したりといった戦略が求められるのです。

 

この、M&A化の流れで注目すべき点のひとつが、買収された企業の保育士の環境です。多くの場合は以前の雇用環境を十分配慮された上で雇用継続となりますが、保育理念や雇用条件が大きく変わってしまう場合、保育士の退職を招き人材確保が難しくなる恐れがあります。

 

ですが、組織の拡大に伴いポジションも増え、キャリアアップの多様性が増すという点では働く側にとってメリットがありますし、一方利用者目線からすると、法人の拡大化や社会的信用度の向上という点では安心材料ともなり、保育の充実化に期待も強まるでしょう。

 

そういった中、今後取り組むべき事のひとつとしては、未来の保育士を育てる大学の教育学部や養成校と連携し、保育業界の構造や市場規模、そして最新動向を学生に伝えていくという点です。変化と多様性が求められる時代の中、子どもたちが「生きる力」を育めるように保育を行うにあたり、保育士自身が置かれている環境を把握しておくことは非常に重要です。そういった意味から、営利法人や社会福祉法人など経営主体の枠を超えた連携が今後さらに必要なのではないでしょうか。

 

保育所利用児童数が2025年にピークを迎えると報じられ、量より質が重視される中、株式運営の法人やM&A企業のシェアも拡大するでしょう。これらの企業が利用者獲得や保育士採用のため、どう差別化に向けた取り組みを展開していくのかが、2021年下半期以降の注目点と言えます。

 

(参照)

・業界動向「保育業界」https://gyokai-search.com/3-hoiku.html


・「保育所等の運営実態に関する調査結果 <速報>」内閣府 H31.1.28